先日、村山由佳先生の「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズ最終巻「ありふれた祈り」が発売されました。
シリーズ第一作目の「キスまでの距離」が発売されてから26年、長い長い旅の果てにとうとう完結を迎えた「ショーリ」と「かれん」
本記事では最新のSecond SeasonⅨ「ありふれた祈り」を読むにあたり、これまでの18巻を読む時間がないという方の為におさらいをしていこうと思います。
最終巻に関してはネタバレは伏せますが、最終巻以外の内容についてはネタバレが含まれますのでご注意下さい。
その分、本記事を読めば最終巻に追いつけるようになっておりますのでどうか最後までお付き合いください。
ちなみに最終巻のネタバレ含めたレビューはこちらにまとめました。

漫画版のレビューもあげました。
「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズについて
おいしいコーヒーのいれ方について、
またこれまでのふたりの大まかな歩みについては以下の記事にまとめてあります。
大前提 おいしいコーヒーのいれ方は「恋愛小説」である
上記記事にも書きましたが、「おいしいコーヒーのいれ方」は
主人公の「勝利」と5つ年上の「かれん」の恋愛小説です。
最初は”いとこ”として同居するところから始まり、恋愛関係発展するも非常に多くの問題や障害を乗り越えていく二人
そんな二人の歩みを描いた小説となっております。
これまでの歩みをざっくりおさらい
これまでの歩みをおさらいしていこうと思いますが、
その前に、登場人物を紹介しなければなりません。
登場人物
こちらは本書から引用させていただきます。
和泉勝利
大学3年生。年上のいとこ、かれんと付き合っているが、現在は単身オーストラリアへ。・・・・花村かれん
介護福祉士になるため、教師をやめて鴨川の老人ホームで働いている花村丈
姉と勝利の恋を応援する、ちょっと生意気な高校2年生マスター
喫茶店「風見鶏」のオーナー、かれんとは実の兄妹由里子
マスターの妻、彫金をやっているアーティスト森下秀人
オーストラリアで文化人類学の研究をしている青年星野りつ子
大学の元陸上部マネージャー、勝利に思いを寄せていた
前提知識 「勝利」「かれん」 「丈」 そして「マスター」の関係性
まずは必要な前提知識を紹介。
主人公「勝利」の亡くなった母親の妹(叔母)の子供たち、つまりいとこにあたるのが「花村かれん」と「花村丈」
シリーズ1作目「キスまでの距離」はこの「花村かれん」と「花村丈」と共同生活を送るところから始まります。
しかし実は「かれん」は花村家の実の娘ではないことが判明します。
実の両親を交通事故で亡くし、花村家に養女として引き取られたのでした。
そして「かれん」には実は血の繋がった本当の兄がいる
それが「勝利」がよく行く喫茶店「風見鶏」のマスター
またこれに加え、「かれん」と「マスター」の実の祖母が房総半島鴨川の老人ホームにいるということも、大事な前提知識として抑えておきましょう。
FirstSeasonのおさらいをざっくりと
第1巻目にあたる「キスまでの距離」
ここでは二人の再開から、「勝利」が「かれん」の出生の秘密とマスターとの関係性を知り、マスターから認められて”とびきりおいしいコーヒーのいれ方”を伝授してもらうところ
さらには「勝利」の想いが「かれん」に通じ、恋人同士となるところまでが描かれます。
そして第2巻目の「僕らの夏」以降、様々な”ささいな”問題にぶち当たりながらも、すこーしずつ二人の関係は進展していきます。
その後の展開でポイントとなるものをざっと箇条書きにしてみました。
・恋敵「中沢博巳」に宣戦布告される
・「勝利」が陸上部マネージャー「星野りこ子」から告白される
・「勝利」が「かれん」と付き合っていることを打ち明けられた「星野りこ子」がまともにものを食べられなくなってしまう
・「勝利」が花村の家を出て一人暮らしを始める
・「かれん」が教師を辞めて介護福祉士への転職を志す
・「勝利」は風見鶏でのバイト中に失敗し、”カウンターの中”への立ち入りを禁じられ、そのままバイトも辞めさせられる
・転職を期に「かれん」が花村の両親に自分が自分の出生の秘密を知っていることを打ち明ける
・「かれん」がとうとう転職、二人は遠距離恋愛に
・なんやかんやあって「勝利」と「かれん」は文字通り結ばれる
「かれん」が転職したのは、実の祖母が入居している房総半島鴨川の老人ホーム。
転職をしてそこで働きたいと花村の両親に告げる時、
はじめて「かれん」は実の祖母がその老人ホームにいること、自分が養子であることを知っていることを花村の両親に打ち明けることになります。
ただし、この時点で打ち明けられていないことが二つ
・「かれん」が「勝利」と付き合っていること
・「かれん」の実の兄が風見鶏の「マスター」であること
このふたつは結局終盤まで打ち明けられないままとなります。
このシーンがあるのがFirst Season Ⅸ「聞きたい言葉」です。
Second Season を Ⅳ「凍える月」までをざっくり
さてめでたく結ばれたふたりの物語はSecond Seasonに続きます。
ここではSecond Season をⅣ「凍える月」までの要点をざっくりと紹介していきます。
ここでも重要そうなポイントを並べてみました。
・「勝利」が暮らすアパートの大家さんの弟「森下秀人」 がオーストラリアから帰国
・「マスター」と「由里子」の間に子供が出来る
・「かれん」が、勤め先の介護福祉施設の経営難から施設を辞めることになる
・「勝利」が大家さん一家である森下家の兄弟喧嘩に巻き込まれ、前歯を折る
・イラストレーターが交代
物語の中の話ではないですが、SecondSeasonⅢからイラストレーターが志田光郷さんから結布さんに交代するということがありました。(志田光郷さんの引退によるもの)
物語で言えば勝利が住むアパートの大家さん一家である森下家にまつわるエピソードが多く登場しました。それもこれも、今後起こる展開への布石であったという訳で・・・
「凍える月」の最後に起こってしまった最悪な事件
「凍える月」の最後のシーン
「勝利」が「マスター」の妻でありその子を身ごもっていた「由里子」の家を訪ね、二階から荷物を降ろそうとした時にそれは起こってしまう。
本当にそれまでと変わらずなんてことのないシーンのように進んでいたので、突然の衝撃展開に最初は何が起こったか分からない状態でした。
一途の不安はしかし、最悪の確信へと変わったのが本書「凍える月」のあとがきでした。
考えてみたら、初めてではないでしょうか。このシリーズにこんな不穏なタイトルを付けたのは。『凍える月』―――本編を読み終えてから、このあとがきを読んで下さっている方には、もう、このタイトルが意味するところがお分かりのことと思います。
SecondSeasonⅣ 「凍える月」 あとがき より引用
そしてこのあとがきは以下のように続きます。
今回本編の中で起きてしまったこと、そしてこれから起きることについては、読んでいてつらいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
SecondSeasonⅣ 「凍える月」 あとがき より引用
<中略>
それを承知で、ここはどうか、読者の皆さんに甘えることを許していただけたら、と思うのです。
私もさすがに、ほかの小説のあとがきではこんなこと、絶対に書きません。書けません。十七年越しの十四巻目目まで、ずっと読んで下さっている皆さんだと思えばこそのお願いです。
どうぞ、いましばらくお付き合いください。そして見守ってやって下さい。主人公たちが抱えるつらさやしんどさを彼らとともに味わい、そしていつか彼らがそれを乗り越えるところまで見届けていただけるならば、<親>としては無上の幸せです。
この事件及び、それに伴う今後の展開とさらにその先についてまでこのあとがきで言及がされております。
この後、読者は文字通り主人公たちが抱える辛さやしんどさを彼らとともに味わい、
この最悪をどのように乗り越えていくのかを見届けていくことになります。
Second Season Ⅴ「雲の果て」以降の話をおさらい
あの事件のあと、「勝利」は「森下秀人」の勧めもあり、単身オーストラリアへ。
「かれん」は1人日本に残されることになります。
「雲の果て」~「彼方の声」は2巻に渡り全編オーストラリア!
Ⅴ「雲の果て」~Ⅵ「彼方の声」は舞台が全編オーストラリアとなります。
「勝利」はそこで住み込みで働きながら英語や車の運転を身に着け、現場での信頼を得てい行く、、、そして時折届く丈の手紙で日本の近況を知る。
この間、日本のことや事件のこと、そして「かれん」のことが出てくるのはほんの一部。読者としてはやはりやきもきします。
Ⅵ「彼方の声」の最後のシーンで、「かれん」から電話がかかってくる。
「逢いたい」
と言われるものの「勝利」は言葉を返せないまま・・・・
というところで本書は終わります。
この2巻では全く事態は全く収拾せず、「勝利」も日本に戻ることがないまま
Second SeasonはⅦ作目に続きます。
Second Season Ⅶ「記憶の海」~Ⅷ「地図のない旅」は勝利のいない日本での物語。勝利以外は少しずつ前に進み出していく
Ⅶ「記憶の海」では一転、日本に舞台は戻ります。
ここまで16巻、すべて勝利の視点で語られて進んできた物語でしたが、本書は「丈」の視点から物語が語られていきます。
「丈」から見た「勝利」
「丈」から見た「かれん」
そして「丈」から見た”あの事件”についても
“あの事件”について
ここでは初めてあの事件がどのようなものであったかが初めて明確に語られます。
―――あの日。
SecondSeasonⅦ 「記憶の海」 より引用
勝利がいまだに誰に語ることも出来ずにいる―――あの日
二階から降りる途中で、よろけて足を滑らせ、段を踏み外し、由里子さんは下まで転がり落ちた。マスターとの間に田尾坊の赤ん坊を身ごもって七か月あまり。とっくに安定には入っていたのに、それでも衝撃のほうが大きすぎた
そして当事者の一人でもある「マスター」の口からは、同じく当事者でもあるマスターの妻「由里子」が加害者である「勝利」を恨もうとせず庇おうとしたことについても語られます。
「負の感情を持ち続けるっていうのは、思うほど簡単なことじゃない。想像以上にきついんだよ。人を憎み続けるには、半端ではない精神力が要るんだ。今の由里子が、憎んだ当たり前の相手さえ絶対に憎もうとしないのには、おまえの言う通り両面ある。半分はたしかに優しさと呼べるものだろうが、半分はまあ、逃げ、だな。決して、逃げるのが悪いということじゃなくて、ただ単に事実としてさ」
SecondSeasonⅦ 「記憶の海」 より引用
そして丈が四人の状態についてこのように語っています。
由里子さんにとっては、マスターのためだけじゃない、姉貴のためにも元気で生まれてこなければなれなかった赤ん坊。
SecondSeasonⅦ 「記憶の海」 より引用
その命を自分たちから奪った勝利を、たとえ心の底でどれほど責めたかったとしても、それをしてしまえば姉貴と勝利はますます一緒にいられなくなる。勝利がどれだけの地獄を見て、その上ですべてを引き受ける覚悟で戻ってきたとしても、由里子さんがやつを許して受け入れない限りは、姉貴と勝利の将来はゼロになる。
勝利本人はそんな虫のいいことをかんがえるわけがないけれど、姉貴が幸せでいなければ、兄であるマスターも幸せにはなれない。もちろん由里子さん自身もだ。あの四人にとっての幸福は、今となっては互いにわかちがたくつながってしまっている。ここでもまた、哀しい堂々巡りだ。
マスターが自分がかれんの実の兄であることを花村の両親に告げる
FirstSeason Ⅸ「聞きたい言葉」で花村の両親に打ち明けられなかった事実がここに来てとうとう打ち明けられます。
すなわち、「マスター」が「かれん」の実の兄であることを
その経緯として、房総半島鴨川の老人ホームに入居している「かれん」と「マスター」の実の祖母を引き取りたいという「かれん」の願いがあったからでした。
このシーンでは「マスター」の口から「勝利」についての思いも語られました。
そのほんの一部を抜粋
「赦し、というのは、なあなあにして済ませることでもなければ、ただ水に流して忘れることでもない。触れれば痛いからといって傷口を覆っておけばいいわけでもない。他人任せや時間任せにしていては、決して解決のつかないことなんじゃないかと思うんです。小さい問題なら、そこまでの覚悟は必要ない、それこそ水に流せば済む話です。しかし、本来なら絶対に赦せないことをしでかし相手を、それでも心の底から赦そう、赦したいと願うのならば、その前に何かこう大きな精神的跳躍が必要というか―――極端な話、相手を殺して自分も死んだうえで双方が新しく生まれ変わるくらいの覚悟をもって、命がけで飛び越えなくちゃいけないものがある気がするんです。そこを越えない限り、自分も相手も納得するような赦しは訪れないんじゃないかと・・・・・・・そう思うんですよ」
<中略>
「曲りなりにもその暗がりをくぐり抜けたことで、我々は今度こそ心の底から勝利くんを赦したいと願っていますし、赦せるようになったと思います。次は、勝利くんの番だ。彼が自分の犯した過ちをほんとうに悔やんでいるのなら尚更、いつまでも今の自分のままでいてはいけない。この状態を長引かせれば長引かせるだけ、周囲の人間もまたさらに苦しむことになるということをきっちり理解したうえで、勝利くんもまた、思い切って何かを飛び越えなくちゃいけないんです。彼のかかえている問題も、我々夫婦のそれと同じように、ただ時が過ぎるのに任せていたのでは永久に解決のつかないことなんですから」
SecondSeasonⅧ 「地図のない旅」 より引用
そして「地図のない旅」のラスト、ついに勝利が帰国してかれんと再開する
「地図のない旅」も終盤にさしかかったところでオーストラリアに場面は移り、急遽「勝利」が帰国することになります。
帰国と言っても3日間だけの一時的な帰国であったので、誰にも会わずにおこうと考えていた「勝利」の思いとは裏腹に、「かれん」が「勝利」を訪ねて・・・・
というところで本作は終了し、その続きがいよいよ最終巻である
SecondSeasonⅨ 「ありふれた祈り」として発売されたのでした。
最低でも前巻Ⅶ「記憶の海」、Ⅷ「地図のない旅」だけでも読んでおくことを推奨する
ここまでツラツラと書いてきましたが、少なくともⅦ「記憶の海」とⅧ「地図のない旅」だけでも読んでおくことをおすすめします。最悪この2冊に近況は集約されているので十分最終巻を迎えられると思います。
自分のつなたい文章ではとても伝えきれない作者と登場人物の思いがつまっておりますので、最終巻に興味がある方は是非こ2冊だけでも読んでから最終巻に手を伸ばして欲しいです。
最終巻を読んだ感想
最終巻を読んだ感想は最初に書いたようにこちらの記事にまとめました。
読んでいて辛いと思うときは沢山あったけど、本当にここまで読んでよかった、と心から思える最終巻でした。
一度でも「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズに触れたことがある方は一人残らずここまで完走されることを強くおすすめします。
コメント
ただただ優しい時間を求めて読み始めたので、読み続けることを何度も挫折しかけました
発刊ペースが最近の作品にしては遅いのも苦しさやもやもやの時間が長く辛かった
そしてあの大きな事故と壊れてしまう勝利と周りの関係、どれだけ読み続けるのが難しかったか
そして「私と、もう別れたい?」この言葉を見たてしまい、もう後を読めなくなってしまいました
その先がどうなったのか未だに知らない
これまで買った本は処分した事ないけどこの本は残ってない
意識的に読むのを辞めてしまった唯一の作品です
makuroさん
コメントありがとうございます。
自分としても若い頃から大好きで読んできた作品でしたが終盤は本当に読むのが辛かったです。
「私と、もう別れたい?」
以降、賛否はありますが自分はほんの少しだけ勝利に救いが見いだせたと思いました
いつの日か、ふと気が向いたらもう一度手にとってみるのもよいかも知れません