おいしいコーヒーのいれ方

「おいしいコーヒーのいれ方」のラストはどうなったのか 最終巻を【ネタバレあり】で紹介!

今回は村山由佳先生の「おいしいコーヒーのいれ方シリーズ最終巻「ありふれた祈り」の感想レビューをしていきたいと思います。

本編に関するネタバレを含みますのでご注意ください。

本書のネタバレがなく、前巻までのおさらいがしたいという方は以下のページにまとめてありますのでこちらをどうぞ

昔読んでいた人にも是非読んでほしい!おいしいコーヒーのいれ方 Second Season9「ありふれた祈り」 最終巻を読む前にこれまでの話をおさらい
先日、村山由佳先生の「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズ最終巻「ありふれた祈り」が発売されました。 シリーズ第一作目の「キスまでの距離」が発売されてから26年、長い長い旅の果てにとうとう完結を迎えた「ショーリ」と「かれん」 本記事では最新の最終巻「ありふれた祈り」を読むにあたり、これまでの18巻を読む時間がないという方の為におさらいをしていこうと思います。 最終巻に関してはネタバレは伏せながら、最終巻前までの話をまとめました。 本記事を読んだうえで最終巻を読めば今からでも追いつける記事になっておりますのでどうか最後までお付き合いください。

また、おいしいコーヒーのいれ方シリーズとは何かについては以下を先にどうぞ

おいしいコーヒーのいれ方(村山由佳著) 7年ぶりの新刊にして最終巻 Second Season 9「ありふれた祈り」 が2020年6月19日 大好評発売中!
おいしいコーヒーの入れ方シリーズの新刊が2020年6月に発売されました 前巻から実に7年ぶりの新刊であり最終巻になります。 このシリーズは直木賞作家の村山由佳先生による恋愛小説で、先生がデビュー当初から現在に至るまで続いている超ロングランシリーズ。 第1巻の「キスまでの距離」が発売されたのがなんと1994年なので26年間続いたシリーズということになります。

ポイントはやはりあの悲劇をどのように乗り越えてどのような結末を迎えるのか。
もしかしたら途中で読むのをやめてしまった人もいるのだと思います。

読む気にはなれないけど結末は知っておきたい、という方も是非本記事を最後まで読んでいただければと思います。

 

「凍える月」で起きてしまった事件をどのように乗り超え、どのような結末を迎えるのかが焦点

これまでも書いてきておりますが、「凍える月」からこれは単なる恋愛小説の枠を超えた物語になってきている。

second seasons Ⅳ「凍える月」の最後に絶望的な事件が起こる
恋人かれんの兄「マスター」とその妻との間に出来た命が勝利の不注意により失われてしまう。

この事件により、恋人かれんとの関係どころではなくなってしまった主人公勝利。

以後4巻に渡りその事件をめぐり様々な登場人物の視点からその葛藤やその後の出来事が綴られてきました。

当事者勝利は日本を離れ遠くオーストラリアの地へ
恋人かれんの弟「丈」は少しずつ前に進んでいけるようにかれんと勝利を見守り、時に背中を押す
もう1人の当事者、マスターは加害者「勝利」への思い、「赦し」について悩み、誰も歩いたことのない道を模索する

大きな事件を得て、どのような結末を迎えるのかが最終巻の焦点となってくる

勝利が一時帰国し、かれんと再開したところから物語は始まる。

勝利がオーストラリアから一時帰国

オーストラリアから一時帰国した勝利が自分のアパートに戻ったところでかれんと再開したところから物語は始まる。

私と、もう別れたい・・・?

まずいきなりの別れ話

これまで17年間のシリーズで、別れ話が上がったこと自体これが初めて。

この問いに、勝利は答えられない。
ここまでか、と。あの勝利がこの問いに答えられないほどなのかと

答えなければ・・・今すぐ否定しなければ・・・そう思うのに言葉が出てこない
〈中略〉
あれほどのことをしでかした僕が、何も失うことなくのうのうと幸せになっていいはずもない。むしろ、僕とかれんがお互いを諦めたなら、僕らの関係を知るみんなこそ、少しは楽になれるんじゃないだろうか。ひいてはかれん自身も

勝利が自分を取り戻し、かれんを追いかける。時間にしてどれほどだったかはわからない。ページにして1ページに満たない時間。
でもそれは、この絶望的な状況を思い知るのに十分な時間だったし、勝利がかれんを追いかけるシーンの意味合いはこれまでのどんなシーンよりも大きな意味合いを持つシーンだった。

ふいに笑いが漏れた瞬間に涙も漏れる

かれんとの間にようやくやわらかい時間が戻り、たわいもない会話の最中に不意に勝利から笑いが溢れる。
その瞬間、笑いと共に涙も溢れ、止めどなく溢れ、止まらなくなる。

どうしてそんなに泣くのを我慢するのか、泣きたい時は泣けば良いのにとかれんは言う。あの事件以降、勝利は笑顔どころか泣くこともできていなかった。

ようやく勝利の中の時間が動き出したのだ

翌朝、かれんからの置き手紙を読むシーンがある。
それは次の言葉で締め括られていた。

あなたを信じています

そして勝利はこの言葉をに背中を押され、しなくてはならないことに向き合う。

マスターにボコボコにされる

前作を軽くおさらい

ここで、前作 SecondSeason Ⅷ「地図のない旅」での話を軽くおさらいしておく。

勝利の恋敵である中沢氏が、マスターに向けてこんな話をしていた。

ここに至るまで、被害者であるマスターは加害者である勝利を言葉で責めることも物理的に責めることもなかった。
でも本当は、マスターは勝利をボコボコにして半殺しの目に遭わせるべきだった。
それを全くしないことで勝利は自分で自分を罰することしかできなくなり、結果として他のどんなことよりも重い罰を受けたのだと。

またマスターこのようにも語っていた

「我々は今度こそ心の底から勝利くんを赦したいと願っていますし、赦せるようになったと思います。

次は、勝利くんの番だ。彼が自分の犯した過ちをほんとうに悔やんでいるのなら尚更、いつまでも今の自分のままでいてはいけない。この状態を長引かせれば長引かせるだけ、周囲の人間もまたさらに苦しむことになるということをきっちり理解したうえで、勝利くんもまた、思い切って何かを飛び越えなくちゃいけないんです。

彼のかかえている問題も、我々夫婦のそれと同じように、ただ時が過ぎるのに任せていたのでは永久に解決のつかないことなんですから」

SecondSeason Ⅷ「地図のない旅」より引用

勝利は閉店後の風見鶏を訪ね、マスターと対峙する⇒ボコボコに

勝利は閉店後の風見鶏を訪ねる。

そして宣言通りというか、文字通りマスターは勝利をボコボコにする。

そのあと、こういうのだ

「いいか勝利、落っこちるなよ。絶対に
想像してみろ。俺らの足元にはな、今もまだ、でっかい穴が口をあけてるんだ。部屋の真ん中にブラックホールがあるみたいなもんだよ。
うっかり気を抜こうもんなら足を踏み外して落ちる。俺たちがこうして顔を合わせる限り、これからも完全に消えることはない、その穴との付き合いはたぶん一生続くんだ
ふつうはまっぴらごめんだよな。いっそのことお互い二度と顔を合わせずに、過去なんかどこかへ押しこめて生きてった方がずっと楽なんだろうよ。

だけどな、勝利
俺はあきらめないぞ。俺も、由里子も、お前をあきらめたりしない。かれんをあきらめたりしない。
そのためには、過去も含めて、全部引き受けた上で生きていくって、俺と由里子は二人でとことん話し合って決めたんだ
人に話せば無謀だと笑われるかもしれない。だが、知ったことか。俺たちは、乗り越えるんだ。お前もだぞ、勝利。乗り越えるんだよ。そうする以外にはないんだ」

SecondSeason Ⅸ「ありふれた祈り」より引用 一部抜粋

風見鶏のカウンターに入ることを赦される

そういえばそれがそのままだった、と思わず思った。
マスターからしこたま殴られ、それこそKO負けしたボクサーみたいな状態の勝利にマスターが風見鶏のカウンターに入るように促す。

遡れば、7作目の「坂の途中」でマスターにクビ宣告を受けてから一度も入ることを許されていなかったこの風見鶏のカウンターに突然入ることを赦されたのだ。

「坂の途中」でマスターは、店のカウンターは自分にとって聖域だと語っている。その聖域への立ち入りを再び許された、赦された意味は無茶苦茶重い。

そこで、勝利の入れたコーヒーをマスター夫婦に飲んでもらうというシーンに繋がる

17年にも及ぶおいコーにある多くのシーンの中でも1、2を争うくらいいいシーンだと思う。

 

言わずもがなだが、このシーンは初めてマスターにカウンターの中に呼ばれ、殴られたシリーズ1作目のシーンとも重なるのだ。

 

風見鶏でのやりとりの後、勝利はマスターの自宅に招待される

ここは具体的なシーンの描写はないが、
風見鶏でのシーンの最後、ご馳走が作ってあるからうちにこいとマスターに誘われる。

全く持ってこれで全てが解決になんかならないことはわかる、分かるがこの一連のシーンを一体どれほど待ち望んだことか。

ほんの少しだけ救われた、気が楽になった。
その心情を本書から引用する

目を開けて天井を見上げた時、身体が嘘のように軽くなっているのを感じた。
〈中略〉
今はまるで、布団の上じゃなくどこか知らない海の上にぽっかり仰向けに浮かんで空を見上げているようで、心許ないのにすべてが眩しく見える。

SecondSeason Ⅸ「ありふれた祈り」より引用

そして3日間の在日期間を経て、勝利はオーストラリアに戻っていく。

後半は再びオーストラリアへ

日本から再びオーストラリアに戻った勝利。
本書の後半はオーストラリア編の後片付けといった感じだが、ここでも事件が起こる。
前々から怪しい雰囲気をかもしだしていた現地の友人のDV夫リッキーが障害事件を起こしてしまい、勝利がこれに巻き込まれる。

現場は学校、凶器を持って子供を人質に取るリッキー
その現場にたまたま居合わせた勝利は子供をとっさに守るが刺されてしまう。

何とか命を取り留め、病室で目覚めた勝利の元に現れたのは、知らせを聞いて駆けつけたかれんだった。
守った子供から感謝された時、勝利は日本から逃げてやってきただけだと思っていたこのオーストラリアの地に自分が来たことに意味があったのだと思う。
奪った命があり守った命がある。
精霊に遣わされこの地にやってきたのだと助けたのだと周りから言われ、勝利もかれんも少し誇らしく感じる


何やかんやで勝利、本当に帰国

その後、なんやかんやあって勝利は帰国を決意する。
今度は本当の帰国になる。

思えばまるまる2冊以上続いたこのオーストラリア編、追い込まれた勝利の逃げ場でもあり、成長の場でもあった。
これまで狭いところでちょこちょこ生きてきた勝利がものすごい速度で逞しくなっていくさまは、
読んでいて勝利が文字通りだいぶ遠くに行ってしまったなと感じた。
一方でかれんを完全放置している様には苛立ちも覚えたし、何よりその急展開に最初はついていくのでやっとだった。

ようやく戻ってきた勝利は、以前よりも一皮も二皮も剥けた男になったんじゃないかと思う。村山先生の言っていた、「勝利には成長してもらわないといけない」と言うことば通りに、重い重い試練を乗り越え勝利は帰ってきた。

このオーストラリアのシーンは蛇足感が拭えない印象

正直どうにもこの後半のオーストラリア編は蛇足感が拭えない。
勝利が完全に帰国するために必要な時間だったとは思うが、傷害事件はなくてもよかったんじゃないか、思ってしまう。

それは前半のかれんとのシーン、マスターとのシーンがあまりにもよかったから。

特に違和感を強く感じたのは、子供を助けて刺された勝利の元に日本から駆けつけたかれんが
子供から感謝される勝利を見て
「大好き」
というシーン

確かに惚れ直す場面ではあるのかも知れない
立派なことをした勝利を労うのは当然なのかも知れない
それでもかれんには、自分を置いてはるばる遠い国で自分の命を投げ出すような行動をとった勝利を叱って欲しかった。

エピローグでようやく17年越しの告白

本編後のエピローグとしてこんなエピソードがあった。
それはかれんの母、佐恵子おばさんへの二人の関係の報告

この後に及んでまだこれを隠していたのだ。

元々はイトコで、かれんの出生の秘密もあったので打ち明けられなかった。
出生の件が明るみになった後も、やはり歳の差もあり学生だった勝利はそのことを打ち明けるには至れていなかった。

が、実は佐恵子おばさんはここにきて、もしかしたらそうじゃないかと思いはじめていたのだった。

もちろん認められたわけでも賛成されたわけでもない。ない、が、一応何とか公認というか、少しずつ認めて貰えるようにという話になった。

おいコー最後の告白がようやくここで出来たわけだ。

ラストシーンは鴨川で

そしてラストシーン。
ラストはこの物語にとって非常に大きな意味を持つ場所、房総半島安房鴨川

あの事件を乗り越え、大きく成長した勝利とかれんはこの場所でこの先のことをつらつらと話をした後、勝利は「ずっと一緒にいて欲しい」という言葉を飲み込んで

「これからもよろしくお願いします」

という言葉を伝えるシーンでこの物語は終わりを迎える

おいしいコーヒーのいれ方 後日談の予定あり?

以下、あとがきより

願わくば、いつかまた別のかたちで、勝利たちのその後をお伝えすることが叶いますように。これも、ひそかな<祈り>のひとつです

SecondSeason Ⅸ「ありふれた祈り」のあとがきより引用

本当に後日談の予定があるか分かりませんが、気長に待ちたいと思います。

賛否あり、色々あったが17年追いかけてよかったと思える完結だった

思うことは色々あると思う。

紆余曲折あったし、途中で挫折した人も多いだろうなと思う。

でも、完結編としては納得いったし、17年追いかけてよかったと思えるような一冊になっている。

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